キミの笑顔が見たいだけ。
姉ちゃんが入院してる産婦人科はオヤジが働いている病院で、ここからだとかなり近い。
カラオケを出てから、ものの10分ほどで到着した。
「晶斗、陽真、こっち」
産婦人科の病棟の前で、スーツ姿の兄貴が俺たちを手招きした。
俺は3人姉兄の末っ子で、一番上の姉ちゃんとは10歳も年が離れている。
兄貴は現在23歳の社会人1年生で、俺との年の差は7歳。
姉ちゃんは専業主婦で、姉ちゃんの旦那は陽真の2番目の兄貴。
いわゆる、幼なじみ同士の恋愛の末の結婚ってわけだ。
春田と岡田も幼なじみ……。
けど……付き合ってないって言ってたし。
気にすることはない。
「晶斗!見てみろよ。すっげー可愛いぞ!」
予定より1ヶ月早く生まれた姉ちゃんの子どもは、保育器の中で気持ち良さそうにスヤスヤ眠ってた。
たくさんの管に繋がれて痛々しい姿をしてるけど、必死に息を吸って一生懸命生きようとしてるのが伝わって来る。
ちっさいのに、頑張ってんだな。
……頑張れ。
頑張って生きろ。
お前は大丈夫だから。
「マジでちっせー……」
手とか足とか、俺の親指の半分もねーし。
可愛いな、おい。
やべー。
「めばえちゃんかぁ。俺、早速おじバカになりそう」
「……俺も」
可愛すぎだろ、おい。
NICU(新生児集中治療室)で頑張ってるめばえに、なんだかすげー元気付けられた。
だから、くだらねーことでヘコむのはやめよう。
「晶斗、久しぶりだな。元気か?」
「まぁ、ぼちぼち」
「そうか」
「ああ。つーか、ゆるみっぱなしのだらしないその顔をどうにかしろよ」
「ムリだろ。初孫だぞ?ちゃんとしろって方がムリ」
「ふーん……あっそ」
つーか、このクソオヤジ。
ジジバカになることまちがいなし。
オヤジは仕事の合間を縫ってNICUにいるめばえに会いに来たけど、5分もしない内に再び仕事に戻って行った。