キミの笑顔が見たいだけ。


姉ちゃんが入院してる産婦人科はオヤジが働いている病院で、ここからだとかなり近い。


カラオケを出てから、ものの10分ほどで到着した。


「晶斗、陽真、こっち」


産婦人科の病棟の前で、スーツ姿の兄貴が俺たちを手招きした。


俺は3人姉兄の末っ子で、一番上の姉ちゃんとは10歳も年が離れている。


兄貴は現在23歳の社会人1年生で、俺との年の差は7歳。


姉ちゃんは専業主婦で、姉ちゃんの旦那は陽真の2番目の兄貴。


いわゆる、幼なじみ同士の恋愛の末の結婚ってわけだ。


春田と岡田も幼なじみ……。


けど……付き合ってないって言ってたし。


気にすることはない。


「晶斗!見てみろよ。すっげー可愛いぞ!」


予定より1ヶ月早く生まれた姉ちゃんの子どもは、保育器の中で気持ち良さそうにスヤスヤ眠ってた。


たくさんの管に繋がれて痛々しい姿をしてるけど、必死に息を吸って一生懸命生きようとしてるのが伝わって来る。


ちっさいのに、頑張ってんだな。


……頑張れ。


頑張って生きろ。


お前は大丈夫だから。


「マジでちっせー……」


手とか足とか、俺の親指の半分もねーし。


可愛いな、おい。


やべー。


「めばえちゃんかぁ。俺、早速おじバカになりそう」


「……俺も」


可愛すぎだろ、おい。


NICU(新生児集中治療室)で頑張ってるめばえに、なんだかすげー元気付けられた。


だから、くだらねーことでヘコむのはやめよう。


「晶斗、久しぶりだな。元気か?」


「まぁ、ぼちぼち」


「そうか」


「ああ。つーか、ゆるみっぱなしのだらしないその顔をどうにかしろよ」


「ムリだろ。初孫だぞ?ちゃんとしろって方がムリ」


「ふーん……あっそ」


つーか、このクソオヤジ。


ジジバカになることまちがいなし。


オヤジは仕事の合間を縫ってNICUにいるめばえに会いに来たけど、5分もしない内に再び仕事に戻って行った。


< 51 / 222 >

この作品をシェア

pagetop