キミの笑顔が見たいだけ。
迷った挙句、逃げないことに決めたあたしは教室に向かっていた。
現在、20時15分。
後夜祭は21時まで。
カラオケ大会が少し前に終わったところで、後夜祭の最大の目玉である告白大会がこの後に行われることになっている。
すでに日は沈んでいて、校舎の中は電気が消えて真っ暗。
後夜祭の提灯の明かりが、ゆらゆら揺れていた。
仄暗い廊下を急ぎ足で突き進む。
薄気味悪くてちょっと怖かったけど、前だけを見て歩いた。
ーーガラッ
呼吸を整え、覚悟を決めて教室のドアを引き開けた。
ーードキドキ
ーードキドキ
「矢沢君」
窓枠に肘を乗せて外を見下ろしていた矢沢君がゆっくり振り返る。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
提灯の明かりに照らされた矢沢君の顔が、すごくカッコ良い。
窓を閉めていても、後夜祭の盛り上がりがここにまで響いて来る。
「……おう」
「…………」
ゆっくり歩み寄り、矢沢君の隣で息をひそめる。
窓から外を見ると、グラウンドに設置された特設ステージで男子が女子に告白をしているところだった。
『体育祭で応援団を一緒にした時から、ずっと好きでした!よかったら、俺と付き合って下さい!』
「あいつ……隣のクラスの奴だよな?」
「あ……うん。だね」
わー、キャーと湧き上がる歓声。
どうやら、告白はうまくいったようだ。
しばらく無言でお互いステージを見ていた。
「あいつ、春田の幼なじみじゃん」
「え?ウソ。セイちゃん?」
わ、ホントだ。
しかも告白される側じゃなくて、する側としてステージに立っている。
どこか緊張したような面持ちだ。
「あは」
そっか。
やっと告白する気になったんだ。
ずっと、好きだったもんね。
「春田に告る気なんじゃねーの?」
「え……?」
なぜか不機嫌な声を出した矢沢君に、手首をギュッと掴まれた。
「違うよ。セイちゃんには他に好きな人が……」
「ふーん。けど、春田は違うだろ?あいつのことがーー」
そこまで言いかけて言葉を止めた矢沢君。
その横顔はなぜか、傷付いているように見える。
「やっぱ、なんでもねー。春田が誰を好きでも、俺はーー」
「…………」
窓の外を見つめたまま固まる。
窓ガラスに映った矢沢君の真剣な瞳に、胸が締め付けられた。
「お前のことがすげえ好き」
どこか切羽詰まったようなツヤのある声。
心臓がはちきれそう。
窓ガラス越しに目が合って、とっさにそらしてしまった。
とてもじゃないけど、まともに顔なんて見れない。