キミの笑顔が見たいだけ。


窓枠に置いた手に力が入る。


嬉しいはずなのに、どうして……こんなにも胸が痛いんだろう。


「…………」


無言のまま時間が流れる。


「マジで好きなんだ。だからーー」


恥ずかしそうにしながらも、矢沢君はまっすぐにあたしを見つめている。


それは、とても眩しくて。


とても温かい眼差しだった。


嬉しいのに悲しいなんて、変だよね。


「俺と付き合ってほしい」


「…………」


まっすぐに矢沢君の目を見れなくて、軽くうつむく。


ダメだ。


ちゃんと向き合うって決めたんだから。


だから、ちゃんとしなきゃ。


顔を上げ、震える唇を動かした。


「ごめん……あたし、矢沢君とは付き合えない」


気持ちを偽るのは、とてつもなく苦しくてーー。


切ない。


好きなのにーー。


ホントはすごく好きなのに、伝えられないのがこんなにもツラいなんて。


誰かを好きになるまで知らなかった。


だって……言えるわけない。


知られたら、きっと離れて行っちゃう。


こんなあたし、嫌になるはずだよ。


嫌われちゃう。


重いと思うに決まってる。


だって……あたしは。


あたしは……っ。


シーンとした空気の中、後夜祭の賑やかな声が聞こえてくる。


そういえば……セイちゃんの告白はどうなったんだろう。


「俺のことが嫌い……?」


「ちが、う……」


嫌いなんかじゃない。


むしろ、めちゃくちゃ好き。


だからこんなに苦しくて、こんなに胸が痛いんだ。


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