キミの笑顔が見たいだけ。


これでよかったはずなのに……消えてくれないの。


「これで……いいんだよね……っ?」


涙が溢れた。


こんなところで、先生の前なんかで泣きたくないのに止まらない。


嗚咽がもれるのをガマンしようと、必死に唇を噛み締める。


流れ落ちる涙を服の袖で何度も拭った。


矢沢先生はそんなあたしを見て悲しげに目を細めたかと思うと、優しくポンポンと頭を撫でてくれた。


その手の温もりが矢沢君にそっくりで、余計に涙が止まらなかった。


「なっちゃんはそいつのことがよっぽど好きなんだな。でも俺は、自分の気持ちにウソをつくのは良くないと思うぞ」


「でも……っ、あた、しは……っ」


あたしは……。


死ぬんだよ?


いなくなるんだよ?


そんなあたしが……恋なんてしていいはずがない。


それに……病気のことを知られたら、みんな離れて行くに決まってる。


だって、こんなあたし重いでしょ?


面倒でしょ?


関わりたくないでしょ?


みんな嫌になるに決まってる。


見捨てられる。


それが一番怖い。


「相手の幸せは相手が決めることだ。なっちゃんは、自分の幸せだけを考えて行動すればいい。病気のことを話して逃げてくような男なら、それまでの男だったってことで諦めろ」


言わずともあたしの考えがわかったのか、諭すように優しく先生は言った。


どうしてそうポジティブに考えられるんだろう。


あたしには……ムリ。


だから、ツラいんだ。


「俺の奥さんも、なっちゃんと同じように病気だったんだ。一度は俺も振られたけど、諦められなくて何度も気持ちをぶつけた。結果、俺の粘り勝ち」


「…………」


矢沢先生にも、そんなにツラい過去があったんだ。


だからお医者さんになったの……?


「ありのままの自分をさらけ出せる相手が、なっちゃんにもきっと見つかる」


「ありのままをさらけ出せる相手……。見つかる、かなぁ……?」


「ああ。なんたって、なっちゃんは俺の奥さんにそっくりだしな。あいつも、俺に似てまっすぐで一途だし。とにかく、心から応援してるよ」


あいつ……?


俺に似て……って、いったい誰のことなんだろう。


ポカンとしていると、矢沢先生は意味深に笑って処置室を出て行った。



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