キミの笑顔が見たいだけ。
「菜都」
「は、はい……!」
う、なんだか妙に緊張して声が……。
「ははっ、すっげー裏返ってる」
ふわりと微笑む矢沢君に、ジワリと頬が熱くなる。
暗くてよかった。
明るかったら、赤くなっていたのがバレてるところだ。
「って、んなことしてる場合じゃねーな。見つかったって海生に連絡しねーと」
「…………」
「あいつ、すっげー心配してたぞ。かなりのシスコンだな」
スマホを覗きながら、矢沢君はちらりとあたしを見て苦笑した。
違うよ。
シスコンなんかじゃない。
海生やお父さんがあたしを心配するのは、あたしが病気だから……。
もうすぐ死ぬから……だからだよ。
「待って。連絡しないで」
スマホを操作する矢沢君の手を掴んで阻止した。
「あたしから連絡するから、矢沢君は何もしないで」
今連絡したら、心配した海生やお父さんが迎えに来ちゃう。
「とにかく帰りたくないの」
「帰りたくないって……何かあったのか?」
心配そうにあたしを見つめる矢沢君。
何があったかなんて……言えるわけない。
拳をグッと握り締めて、唇を噛んだ。
「何も……ないよ。ただ、なんとなく帰りたくないだけ」
こんな時に強がって笑ってしまうのは、昔からのあたしの癖。
大丈夫じゃないのに強がって、心の中ではずっと泣いてる。
「強がって笑う必要ねーから」
「別に強がってなんか……」
「よく言うよ。消えそうな顔して笑ってるくせに」