キミの笑顔が見たいだけ。


映画が進んでいくにつれて、ところどころからすすり泣く声が聞こえた。


『死ぬなよ……っ、お前のことが好きなんだって……!なぁ』


動かなくなってしまった植物状態の彼女にすがりついて泣く彼氏。


涙が溢れて目の前がボヤけた。


あたしもいずれあんな風になってしまう。


呼吸さえ自分で出来なくなって、人工呼吸器に繋がれて、意思とは関係なく生かされて……。


そして、眠るように死んでいくんだ……。


「……っく、う……っひっく」


怖い。


……怖いよ。


まだ死にたくない。


生きていたい。


ーーギュッ


恐怖に呑み込まれそうになった時、矢沢君の大きな手が横から伸びて来た。


優しくあたしの手を包んでギュッと握ってくれる。


矢沢君は素知らぬ顔でスクリーンを見つめていて、そこがまた優しさなんだと思った。


あったかい手だな……。


なんだか、すごく癒される。


落ち着く。


ギュッと握り返すと、驚いたような顔で矢沢君がこっちを振り向いた。


矢沢君……あたし、あたしね……っ。


言えない言葉の代わりに手をキツく握る。


すると、矢沢君もそれに応えてくれるかのように握り返してくれた。


「……っ」


このまま隣にいられたら、どんなによかったかな。


だって、こんなに幸せなことってないよ。


矢沢君……あなたが好きです。


大好きです……。


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