キミの笑顔が見たいだけ。


「待てよ、俺も一緒に帰るから」


背後から矢沢君の声がしたかと思うと、手をギュッと握られた。


「や、矢沢君……手、手」


「なに?嫌?」


「いや……あの、嫌じゃない、けど」


「ならいいだろ」


「で、でも、カフェに行かなくていいの……?」


「菜都が行かねーなら、意味ないからな。それに、暗いし危ないだろ」


うっ……。


繋がった手と手が恥ずかしくて、赤くなった顔を隠すようにうつむきながら歩いた。


夜風が頬に当たって冷たいのに、全身が火照って熱い。


「このあと、なんか予定ある?」


「あ、ううん……」


「ちょっと寄り道して帰らねー?」


「いいけど、どこ行くの?」


「んー、公園」


学校前を通り過ぎ、いつもの通学路を2人で並んで歩いた。


不意に空を見上げると、今日は曇り空で星や月が見えない。


どうりで暗いと思ったわけだ。


これ以上思い出を作りたくないのに、矢沢君ともっと一緒にいたいと思ってる矛盾だらけのあたしの心。


途中でコンビニに寄って温かい飲み物を買い、歩き出した時だった。


ーーポツ


ーーポツポツ


「わ、雨……?」


「みたいだな。ちょっと急ぐぞ」


「うん」


人通りの少ない薄暗い道を、手を引っ張られながら走った。


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