幼なじみのフキゲンなかくしごと
「なにー? どうしたの矢代くん」
女の子の一人がそう尋ねると、瑞季くんはハッとしたように口元に手を持っていく。
この前、私がハンカチを届けようとしたときと同じように。
「いや……なんでもない」
そして、そのまま静かに腰をおろす。
山崎くんそんな瑞季くんをしばらく見つめたあと、無言のまま教室を出ていった。
……なんだったんだろう。
喧嘩でもしたのかな?
たとえもしそうだったら、それこそ珍しい。
瑞季くんは自分の感情を表に出したりしないから、喧嘩なんてしようと思ってもできるものじゃない。
自分の置かれてる状況を忘れてそんなことを考えていたら
「北野さんたちも、雨がこれ以上ひどくならないうちに帰った方がいいんじゃない?」
と、いつものトーンで瑞季くんが言った。