幼なじみのフキゲンなかくしごと

これは夢なんじゃないかって気がしてくる。


昇降玄関のガラス張りの扉の前に立っている瑞季くん。


背景の外の暗さと雨と校舎内の異様な静けさのせいで、見る世界が現実味を帯びてない。



何も言わずに立ったままの私にしびれを切らしたのか、瑞季くんはーっと深い息をついて、それが白く染まった。



「なんで来ないんだよ」


「えっ」


「俺が怖いの?」


「そんな、ことは……」



言い終わらないうちに、瑞季くんはもう一度ため息をついた。心底うんざりしたようなため息。


そしてスニーカーをその場に脱ぐと、まっすぐに私に向かって歩いてくる。


びっくりして、思わず一歩退いてしまった。



「葛西にキスされたって?」

「っ、 」

「まあ、隙だらけだもんね、あさひは」



低い声が鼓膜を揺さぶる。


また一歩詰め寄られて、瑞季くんの影でさらに視界が暗くなった。
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