幼なじみのフキゲンなかくしごと
「──覗き見」
ドン、と心臓が跳ねた。
「俺が気づいてないとでも思った?」
背後から飛んできたのは、笑いを含んだ声。
振り返ることもできずにその場に固まって、自分の震えた呼吸音を聞いた。
「お前のせいで気分そがれた。せっかくいーとこだったのに、最悪」
わざわざこんな文句を言うためだけに、瑞季くんは私を追いかけてきたんだろうか。
しかも、わたしが見てることに気づいてたなんて。気づいてて、キスしてたの……?
ぎゅうっと胸の奥の方が苦しくて、言葉が全然出てこない。
「……なんで下向いてんの。勝手に覗いてごめなさいも言えないの? 」
「……っ」
「黙ってないでこっち向けって」
ひどく乱暴に肩をつかまれた。
抵抗する暇もなく、瑞季くんと向かい合わされる。
――あ。
って思った時はもう遅い。
触れられたことに対する戸惑いで、緊張の糸が一瞬でプツンと切れた。
とっさに顔を隠そうと覆った手は、瑞季くんによっていとも簡単に振りほどかれる。
「……は? なんで泣く……」
落ちてきたのは、予想通りの声音。
めんどくさそうで、不機嫌で、呆れた声。
ああ、終わった。
瑞季くんに見られてしまった。
いちばん、見られたくない涙。
お願い、何も言わないで。
面倒くさそうに ため息なんか吐かないで。
「……俺が泣かせてるみたいだろ。最悪」