現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
一際大きな声を課長は出す。
その声に驚いて、身体を大きく跳ねらせ、ピタリと涙が止まった。

「違うんだよ!よく聞け、別に俺はお前を辞めさせようなんて思っていない。むしろ辞められたら困るくらいだ。だけど、せっかくお前にはもったいないくらいのいい男が出来て、これからってときに離れてしまうのはもったいない、そう思うんだ。俺は岡田くんがお前を大切に思っていることも知っているし、お前だってそうだろう?だからこそ、その気持ちを大切にして欲しいと思っているだけなんだ」

「課長……」

「これはあくまで俺の意見だ。お前がここで会社を選んでも、生活は今までとなにも変わらない。だけど岡田くんを選べば、お前の世界はもっと広がる。岡田くんとの方を選んだ方がお前のためになる。だからもし岡田くんが付いてきて欲しいと言っているのなら、迷わず付いていくべきだと俺は思う。その方が絶対に後悔しないからだ」

いつもは明るくおちゃらけている課長の顔が、真剣な眼差しで私を見つめていた。
その眼差しに、昂っていた感情が静かに落ち着いていく。

そして課長の言葉で、濃い靄がかかっていた私の心の中が、すうっと晴れていくような気がした。

「あとな、もしこの街に戻って来てまた働きたいと思うんだったら、お前はこの工場の仕事が分かる奴なんだから、いつでも雇ってやれる。戻って来たときにこの工場が潰れていたら、……そのときは申し訳ないが、それ以外だったら俺はいつでもお前を受け入れてやるから、気にせずについて行って来い」


「……と工場長が言っていた。実はな、お前と岡田くんのこと、工場長もさりげなく応援しているんだぞ?」

「へ……?」

課長は言いながら笑う。

まさか、工場長がそう思ってくれているとは思わなかった。

「工場長が……、そんなことを……」

「ああ。普段あまり喋るような人じゃないがな、ちゃんと情報は工場長の耳にも入っているんだぞ?それでいて、真壁のことを応援しているんだ」

「どうして……?どうしてそんなにみんな優しいんですか……。こんな私なのに」

「どうして、って、そりゃ今までここで頑張ってきた姿をみんな見てきてたからだよ。文句は……少し言ってたけど、黙々と弱音も吐かずにこの男だけの世界で、お前はめげずにやってきただろう?みんなお前には一目置いているんだよ」

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