現場系男子にご用心!?【長編改訂版】

……知らなかった。

みんながそんな風に自分を見ていてくれていたなんて。


嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。


私はなんて恵まれているんだろう。
この工場に入って、本当に良かったって思える。

「でも、少しは自分のこれからを考えてもいいと思う。お前は自分のことよりも周りのことを優先する癖があるから。だけど、もういいだろう、たまには自分のことをよく考えろ。まだ時間はあるからゆっくりと考えて行けばいい。お前の大事な人生だ、絶対後悔のないようにしろ」

「……はい」

「まず第一にな、本当に辞めさせたかったら、こんなところでコーヒー飲みながら話したりするわけないだろ。よく考えろ、馬鹿」

「あは……言われてみれば、そう、ですね。本当に、ありがとうございますっ……」

そう言って涙でぐちゃぐちゃな顔で、笑う。
あまりにも酷い顔だったのか、課長は少し噴き出しながら笑った。


「酷い顔だなあ。ちゃんと顔を拭いて落ち着いてからでいいから、作業再開しろよ?あんまり無理をしちゃダメだ」

「分かりました。ありがとうございます、課長」


課長はそれから「さて、言いたいことも言えたし、休憩するかぁ」と言って部屋を出て行った。

これは休憩じゃなかったのか、とツッコミをいれたくなったが、やっぱり課長は憎めない。


私は泣きはらした顔を作業着の裾で拭うと、また作業へ戻った。




――作業をしながら思う。

私はたくさんの愛に包まれて生きている。
それは今まで私が気付かなかっただけで、その中でずっと私は過ごしてきた。

本当にこの工場に戻れるのか、それは分からない。
けれど、今そう思ってくれている気持ちだけでじゅうぶん幸せだ。

この工場が大好きで、ここの人達が大好きで。
そして、岡田さんが大好きで。

だから、私はどうするのが一番いいのか、もう悩まなくてもよく分かった。

後悔しないように。
そう、自分の気持ちに素直に。


「ありがとう……、私のために」

ぼそりとそう、呟く。
そのときの私の心の中は、すがすがしいほどに晴れ渡っていた。
< 104 / 133 >

この作品をシェア

pagetop