現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
……知らなかった。
みんながそんな風に自分を見ていてくれていたなんて。
嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。
私はなんて恵まれているんだろう。
この工場に入って、本当に良かったって思える。
「でも、少しは自分のこれからを考えてもいいと思う。お前は自分のことよりも周りのことを優先する癖があるから。だけど、もういいだろう、たまには自分のことをよく考えろ。まだ時間はあるからゆっくりと考えて行けばいい。お前の大事な人生だ、絶対後悔のないようにしろ」
「……はい」
「まず第一にな、本当に辞めさせたかったら、こんなところでコーヒー飲みながら話したりするわけないだろ。よく考えろ、馬鹿」
「あは……言われてみれば、そう、ですね。本当に、ありがとうございますっ……」
そう言って涙でぐちゃぐちゃな顔で、笑う。
あまりにも酷い顔だったのか、課長は少し噴き出しながら笑った。
「酷い顔だなあ。ちゃんと顔を拭いて落ち着いてからでいいから、作業再開しろよ?あんまり無理をしちゃダメだ」
「分かりました。ありがとうございます、課長」
課長はそれから「さて、言いたいことも言えたし、休憩するかぁ」と言って部屋を出て行った。
これは休憩じゃなかったのか、とツッコミをいれたくなったが、やっぱり課長は憎めない。
私は泣きはらした顔を作業着の裾で拭うと、また作業へ戻った。
――作業をしながら思う。
私はたくさんの愛に包まれて生きている。
それは今まで私が気付かなかっただけで、その中でずっと私は過ごしてきた。
本当にこの工場に戻れるのか、それは分からない。
けれど、今そう思ってくれている気持ちだけでじゅうぶん幸せだ。
この工場が大好きで、ここの人達が大好きで。
そして、岡田さんが大好きで。
だから、私はどうするのが一番いいのか、もう悩まなくてもよく分かった。
後悔しないように。
そう、自分の気持ちに素直に。
「ありがとう……、私のために」
ぼそりとそう、呟く。
そのときの私の心の中は、すがすがしいほどに晴れ渡っていた。