現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
……と。


天井を見上げた瞬間、ハッと気付いた。


あれ?
俺がタイに行くってことは。


もう菱沼には行けなくなるってこと、……だよな?


ってことはつまり。

彼女に会えなくなるってこと……?

……じゃない。

会えなくなるんだ!!



失敗した!とあんなに喜んでいたのに、そのことに気付き、一気に気持ちが萎んでしまった。


忘れていたわけじゃない。
わけじゃないけど、あまりのビッグチャンスに浮かれて、ついその場で即答してしまった。


うわああ、どうしよう……。
このままじゃ、話もろくに出来ないまま、タイに行くことになってしまう。

そうなれば、何年……、いやもしかすると、もう二度と会えない可能性だってあるわけだ。


「……なんてこった。俺に残された時間は半年もないのか」

いつ正式に辞令が出るか分からないが、それが出れば、タイへの出向準備のために、早めに菱沼へ行く人間も、俺ではない誰かに引き継がなきゃならない。

となれば、そんなに時間があるわけじゃないんだ。


出来れば、タイに行くまでになんとか彼女と上手くいって、付き合えていればいいんだけどな。

欲を言えば、結婚……、とか。


……なんて。

まずは話しかけること、それすら出来ていないのに。

そんなトントン拍子に進むわけないよなぁ……。



その日から、菱沼へ行く日までの何日間か、ずっとどうやって話しかけるか、いかに仲良くなれるか、そればっかりを考えていたような気がする。

仕事をしていても、昼飯を食ってるときも、家に帰ってテレビを観ているときも。

ずっと、ずっとそんなことばかり考えていて。


でも、いざ菱沼へ行く日になり、実際に彼女を目の当たりにすると、どうしても勇気が出ない。

ちょっと歩けば彼女の近くへ行けるのに。
その一歩がどうしても踏み出せない。

いつものように、設計図の紙を前にして、横目で彼女の姿を追うことしか出来ずにいた。



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