現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
「――岡田ちゃん、最近心ここにあらずだよね?」

そんなとき、突然そう声を掛けられて、ハッと我に返る。
横を向くと、そこには菱沼の東雲課長が立っていた。

もしかして仕事の合間に彼女を見ていたことがバレたんだろうか、と内心焦る。

「な、なにを。別にそんなことは……」

「そーう?前みたいなシャカリキさがないんだよなぁ。まあここやたらに暑いから仕方ないけどさ。どうした?なにか悩みでもあるの?」

悩みがあると言えばあるけど、仕事のことではないし。
別会社の課長さんに「あそこにいる女性に恋をしていて……」なんて言えるわけもない。

「まあ色々ありますが……。ダメですね、仕事中にそれを表に出してしまっては。俺はまだまだですね」

「なんでも完璧な人間なんていないんだし、いいんじゃない?別に仕事に支障が出ているわけじゃないんだしさ。仕事はちゃんとやってる。ただ雰囲気が前と違って見えたから聞いただけだよ。気にしなくていいからね」

菱沼の人たちは、一様にみんな優しい。
仕事をしていて、その優しさに何回助けられたか分からない。

特に東雲課長は、誰よりも気を遣ってくれる人で……。

この上司の下で働く従業員は幸せ者だ。


「……ところで、前から聞きたかったんですが、あの研磨機にいる女性って、いつからあの作業を?」

「ん?真壁のことか?」

「真壁さんって言うんですか」

「そう。真壁里緒奈っていうんだ。アイツはたしか……、あの作業に就いて二年くらいかな。ずっと研磨の仕事がしたいと言っててな。危険だから若い女の子にはあまりさせたくなかったんだが、どうしてもって諦めなくてな。変わった子だろ?」

「へえ……、そうなんですか。頑張り屋さんなんですね」

「真壁は本当に努力家なんだ。女だからと言われたくなくて人一倍努力し、今の作業をしている。今では何十年とやってきた奴らに、引けを取らないくらいの技術を持ってるよ。……まあスピードはまだまだだが。俺は真壁みたいな部下を持てて、幸せだよ」

東雲課長は作業をする彼女を見て、フッと笑った。

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