現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
チケットを買い、中へと入る。
中には戦闘機と旅客機がまるごと置いてあり、その周りには歴代のエンジンや、飛行機の仕組みが書かれたパネル等が展示されている。
過去に来たことはあるから、ある程度の位置は覚えてはいるけれど、それでも何回来てもこの光景に心躍らされる。
「これがレシプロエンジンだね」
「車のエンジンではおなじみの4ストローク型のですね。レシプロってたしか20世紀前半まで飛行機に使われてたんでしたっけ?」
「そうそう。これで車を動かせるどことか空を飛べるんだから、昔の人は凄いもの開発したよなぁ。ほら、そこの部品を里緒奈が削ってる」
「あ、あった。今のよりは型が古いけど、なんか感慨深い」
ひとつひとつの展示物を、お互いに話してはゆっくりと見て回る。
たまに岡田さんから分からない単語が出てきたりするけれど、それを分かりやすく解説してくれたりして、とても勉強になる。
そしてなにより、その時間がとても楽しい。
「本当は、飛行機の設計の仕事に尽きたかったんだよね」
「え!?……そう、なんだ」
「そう。けど残念なことに就職活動で落ちちゃったけど。まあでも、機体は違えど希望していた分野に就職出来たから、不満はないけど」
優秀な岡田さんでも、そんな挫折を味わっていたとは。
「里緒奈は?今の仕事は天職?」
「まあ、天職と言わればそうかも。なんだかんだで研磨の仕事を任されて今は楽しいし。仮に今の職場にいなかったら、父の跡を継いで車の整備士にでもなろうかと思っていたから、どっちにしろなにを選んでも車関係の仕事なんで天職だったかもしれないですね」
「現場系以外の職業は考えてなかったんだ」
「当たり前ですよ。じゃなきゃ工業高校に進んでないですもん」
「あ、そうか。言われてみれば」
終始岡田さんとの話は途切れることはなく、展示物見ながら昔の夢を語ったり、専門的な話をしたりしながら、気がつけばもう閉館の時間が迫っていた。
「いやー、面白かった。ありがとう付き合ってくれて」
「いえ、こちらこそ。私も思ったより楽しめました」
「じゃあ飲みに行こうか。今日はマスターが俺らのために特別メニューを出してくれるらしいよ」
「おお!それは楽しみ!」
先週と同じように、岡田さんの住むマンションへと車を置いて、居酒屋へと向かった。
中へ入ると、店主が前と同じように私を見てニヤリと笑みを浮かべ、個室へと案内する。
マスターの特別メニューは、海鮮鍋だった。
魚に合うという日本酒付きで、料理を嗜む。
料理が旨いと、お酒が進む。
お酒が旨いと、料理が進む。
たらふく食べて、たらふく飲んで。
ついでに岡田さんとの会話も、たくさん弾んで。
あるときから、私の記憶は途切れていた。