現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
私は急いで、残っていたカップラーメンを汁を勢いよく飲み干すと、食堂を後にする。
そしてそのまま外の喫煙所へと向かった。
外の喫煙所には、昼ご飯を早々に食べ終わった先輩たちが、灰皿を囲んで煙草を吸っている。
一斉に煙草を吸うもんだから、外なのに喫煙所の周りはとても煙い。
その中には杉浦さんの会話にも出てきた、東雲課長がいた。
課長は、お腹のぽっこりと出た五十過ぎの陽気な男の人である。
仕事の出来る人だが、普段はオヤジギャグとセクハラすれすれの下ネタばかり話す、ただのおじさんだ。
東雲課長はプレス課の課長。
私が担当している研磨の仕事は、プレス課という所に配属される。
つまり課長は私の直属の上司、というわけ。
課長は私が入社当時から良くしてくれて、私が現場で働きたいという希望をかなえてくれた人でもある。
飲み会では酔っぱらって何回も同じ話をし、なかなか私を放してくれず、常に最後まで付き合わされるのが定番になっているが、恩人でもあるからそれは仕方がない。
ちなみに彼は既婚である。
子供も、もうそろそろ成人を迎えるそうだ。
……それはいいとして。
課長に見られたのは失敗だった。
課長は飲み会になると、いつも私に口うるさく言うのだ。
「結婚はいいぞ」「早く彼氏を作れ」「オヤジみたいな生活をしていて悲しくないのか」などなど。
そのたびに軽くかわしていたのだが、あんな場面を見られたら、ますます結婚しろ口撃(こうげき)がうるさくなるではないか。
ここはひとつ言ってやらねばならない。
誤解を解かないと、なにかと面倒だ。
「東雲課長」
煙草を吸う課長に、後ろから声を掛ける。
振り向いた課長は、私の顔を見るなりニヤニヤっとゲスな笑顔を浮かべた。
「おお、真壁。見たぞお?土曜日岡田ちゃんと一緒に車に乗っているのを!なんだ?いつそんな関係になったんだ?」
「だからそれについてですけど、本当になんにもないんです。ただ遊んだだけなんですってば。余計なこと言いふらさないでもらえますか?」
「またまた~、そう言って実は……なんだろう?ついに真壁にも彼氏が出来たか!しかもあんな高スペックのいい男を捕まえるとはなぁ。やるなあ真壁!よし、今日は祝いだ、飲みに行くぞ!」
「だからどうしてそうなるんですか!付き合ってないのに祝われても困りますって!」
必死にそう言っても、課長は周りの先輩たちと笑い合っているだけだ。
先輩たちもそれぞれに、「若いっていいなあ」「俺も恋してえなあ」などと言うばかりで、誰も信じてくれない。
埒があかないので、仕方なくその場を去る。
そして女子トイレの個室に篭り、蓋の上に腰掛けて頭を抱え、大きくため息を付いた。