現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
そう聞こえた後、ぷつり、と電話は切れた。
電話越しだけれど、耳もとでそう言われた私は、電話を耳に当てたまま動けないでいる。
――『好きだよ』――
反則だ。
耳もとのその言葉は反則。
アルコールが回った後のどくどくよりも、より早く心臓が動いている。
激しすぎて、体まで上下に動いてしまいそうだ。
そのまま床にバタン、と倒れた。
ぼんやりと日焼けた天井を見つめながら、ふと思い出す。
……ああ、そうだなぁ。
私が前の男と別れたの、まだ理由があったな。
そう。
もうドキドキしなくなったからだ。
好きだとか、そんな言葉もいつの間にか言わなくなって。
電話するのも、会うのも、だんだんと少なくなって。
そのうちに面倒臭くなって、で、別れたんだっけ。
こんなにドキドキとしたのは、久しぶりだ。
自分では女を捨ててしまったなんて思っていたけど、まだ残ってたんだ。
別にまだ岡田さんのこと、好きな訳じゃないけど。
……でも、なんだろう。
もしかしたら、好きになってしまうかもしれない。
それはいつになるかわからないけど。
なんとなくそんな予感がした。
「……単純な女」
そう言って、自分自身を笑う。
たった一言を、耳もとで言われただけでこんなになってしまうなんて。
岡田さんのせいで、心の奥底で眠っていたもう一人の自分が、目覚めたみたいだ。
それは女としての自分。
面倒になって、押し込めて隠していた本来の自分だった。