現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
『ね、それよりも、どうして用もないのに掛けてきてくれたの?』


そう言う岡田さんの表情がその声だけで、手に取るように分かってしまった。
意地悪な笑みを浮かべながら、きっとそう話している。

本当は岡田さんは気付いているはずなんだ。
だけど、私の口から言わそうとしている。

本当は恥ずかしくて言いにくいんだけど、でも、これだけ迷惑かけちゃったからなぁ……。
ここは素直に言ってみようか。


「どうしてって……。声が……聞きたかったから。ちょっと寂しかったんだ」


私がそう言うと、電話の向こうでゴン、と鈍い音が聞こえた。
明らかにどこかに身体が当たった音。

もしかして転んだ!?

「だ、大丈夫!?」

『ってー……。頭を壁にぶつけた……。もー、なんだよ、言わないと思ってわざと聞いたのに、素直に言っちゃうんだもん。……それ反則だって。でも、めちゃくちゃ嬉しい』

そう言った岡田さんの声は凄く明るくて、思わずにやけてしまう。
そしてドキドキが止まらなくなった。

本当はもっと話していたいけど、あっちはまだ仕事中だ。

……もう切らないと。

「聞けて良かったよ、岡田さんの声。……じゃあ、もう切るね、これ以上邪魔しちゃいけないから」

『うん、分かった、また頑張るよ。あ、ひとつ最後にお願いしてもいい?』

「なに?」

『終わったらさ、里緒奈ん家、行っていいかな?』

「……は!?うち!?」

私は慌てて部屋の中を見渡した。
以前よりは綺麗になったとはいえ、それでも多少散らかっている。

……来るまでに片付けられるか!?


「どのくらいで終わりそう?」

『そうだね……、あと一時間くらいかな。夕飯は気にしなくていいよ、会社で食べたから』

「そっか。じゃあ、うん、わかった。待ってるよ」

そう言って、電話を切った。

その後、残っていたビールを一気に流し込むと、ハイスピードで部屋を片付けた始める。
とにかく散らばったものは一時的に押し入れに押し込んで、夜だってのに掃除機を掛けた。

まったりとお酒を飲んでいる場合じゃない!
岡田さんが来るまでに、なんとか小綺麗にしておかないと!!



そして二十一時を過ぎた頃、岡田さんはやって来た。

片付けはなんとか間に合った。
少し埃が残ってる部分はあるけど……、見逃してもらおう。

ドアを開けるなり、私をその場で思いっきり抱きしめて。
耳もとで、「あんなこと言われたら、声だけじゃ我慢出来ないよね」って囁いた。

恥ずかしかったけどそのとき、凄く幸せだな、って思った。

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