現場系男子にご用心!?【長編改訂版】
――次の日、泣きはらした目で実家へと戻った。

実家へはバスと電車を乗り継いで約三時間ほど。
年末の休みとあって、バスも電車も凄く混んでいた。

泣き疲れに加えて昨日の夜はあまり寝られず、さらにはバスも電車も座るところがなく、結局立ったままで地元の駅まで我慢しなければいけなかった。

お陰で実家に着いたときにはヘロヘロで、出迎えてくれた母に心配されたくらいだった。

「立ったまま三時間はキツかったでしょう。夕飯の時間まで少し休んでな。今日はアンタの好きなおかず、いっぱい用意してあるからね」

「……ありがとう、母さん。お言葉に甘えます」

半年に一回くらいしか帰らない自分の部屋は、母がいつも掃除と空気の入れ替えをしてくれているからか、いつ来てもキチンと片付けられていて、綺麗になっている。


部屋に入るなり、バッグを適当に投げ捨て、ベッドに勢いよく身体を預けた。
今まで足ばかりに加重がかかっていたからか、横たわった途端に足が一気に軽くなる。

「あ~……、生き返る……」


太陽の匂いがする布団に、気持ちが少し安らいだ。

この匂いは、なにかに似ていると思った。



そのとき、ふっと浮かぶのは岡田さんの顔。


……ああそうだ。
この匂いは、岡田さんのベッドと同じ匂いがするんだ。

岡田さんあんなに忙しいのに、こまめに布団干ししてたんだなぁ……。

隣にいないはずなのに、なぜか岡田さんに寝ながら抱きしめられているような感覚になった。
それが凄く嬉しくて、妙にニヤけてしまう。

妄想しちゃうなんて、どうかしてるな、自分。

でも、いいか。今は。


だってこんなにも幸せな気持ちになっているから。




なんて、そんなことを考えているうちに、いつの間にか記憶は途切れてしまって。

……気が付いたら部屋の中は真っ暗になっていた。


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