正しい男の選び方
「……」
葉子が返事ができないでいると、さらに言葉を重ねた。
「悪くないでしょ、こうやって車を飛ばすのも。目の前の道が、未知の世界につながっているような気がしない?」
やっぱり葉子は返事が出来なかった。
浩平はしばらく走って車を停めた。海の見える小高い丘へ上がって行く。
「ピクニックにしよう。お弁当があるから」
そう言って、芝生の上にブランケットを敷いた。
「お弁当?」
「車にある。頼んで買っといてもらったから」
浩平は、仕出し屋に頼んだのであろう、見事な弁当を取り出した。
それは、お重に詰められた、懐石風の松花堂弁当だった。
魔法瓶を取り出してお茶を注ぐ。ぬかりなく湯のみも添えられていた。
「懐石で頼んでるから、肉・魚は入ってないよ。それに、ビニール袋とペットボトルはNGだって言っといたんだよねー」
浩平がお茶を注ぎながら得意そうな顔をした。
「何かすごい……」
「だろ。実際、カネの力ってのはすごいよ。こんなことも軽々と出来るんだから」
「何だか……悪いこと、してるみたい」
「悪い事はね、してない、多分」
浩平の言い方に思わず笑みがもれる。