正しい男の選び方

二人は、午後の遅い時間に札幌に着いた。それから車を置いて、少し街中を歩く。
小腹がすいたという浩平に付き合って、ラーメンを食べた。

この時は何を食べるか、二人で散々言い争いになった。
海鮮丼を食べたかった浩平に、葉子はガンとして首を縦に振らず、妥協案としてラーメンとなったのであった。

「北海道で魚介類食べないって有り得なくない!? オレ、昼メシは目一杯君に配慮して懐石にしたじゃん?」

「だから、食べていいって言ってるじゃない、海鮮丼。私は何か違うもの食べるし」

「だって別々に食べるなんてつまんないじゃん」

「だから、じゃあ、他のものにして」

こんな言い争いの末にラーメン屋になったのである。

「ラーメンも、私的には限りなく黒に近いグレーなんだけど、……ま、手を打ってやるわ」

「こっちの方が限りなく妥協してると思うんだけど……その言い方、上から目線すぎない? 
 少しは、協調性を身につけたら? 他人に合わせるって大事だよ?」

もっともらしく説教くさいことを言い出すので、葉子はカチンとくる。

「だから、何でアンタに合わせる必要があるのよ。
 アタシは、一緒に来たいとも一緒に食べたいとも言った覚えはないわよ。むしろ、アンタが無理やり連れて来たんじゃない」

浩平の言い方に思わずムキになっていた。
迷惑しているのはこっちなんだよ、と葉子は声を大にして言ってやりたい。

「そんなにガンコだと損ばっかりするんじゃない?」

余計な一言にさらに気を悪くする葉子である。
ずっとこんな調子で、羽田に着いたのは、夜の7時すぎ。そのまま家まで送ってもらって、葉子は8時前には自分の部屋にいた。

それにしても葉子は、生まれてから今までで一番現実感のない一日を過ごした。


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