正しい男の選び方

次の瞬間。

葉子は浩平を抱きしめていた。
浩平の頭を抱えるように、ぎゅっと抱きしめた。

浩平の頭は甘いバニラの匂いがした。浩平は身動き一つしない。葉子もじっとそのまま浩平を抱きかかえていた。

「……何、これ」

先に口を開いたのは浩平だった。

「……わかんない」

葉子は、自分自身のとった行動に当惑している。
ただ、涙を一粒こぼす浩平を見ていたら、思わず抱きしめていた。
浩平が気の毒に思えた。

甘いマスクで女をとっかえひっかえして軽薄に遊んでいた浩平が、ついにしっぺ返しをくらっただけだ。
当然の報い。
それなのにザマアミロという気持ちは全然沸きあがってこなかった。
ただ、……何だか気の毒で哀れな気がした。

捨てられた子犬のような顔の浩平を見ていたら、ぎゅっと胸がしめつけられた。
どうしてなんだろう?
自分でもよく分からなかった。

「……哀れみのハグ、ってとこかな?」

そう、哀れな浩平に同情しただけだ。

「……哀れみのキスは? なし?」

葉子を見上げて呟く。上目遣いの浩平に、葉子は一瞬クラっとした。

「……調子に乗らない」

葉子は、小さく咳き込んで顔を赤くする。心臓の音が聞かれたら困る、なんてどこかで思っていた。

ったく。すぐに調子に乗るんだから。
コイツは本当に天性の女たらしだった。

葉子が呆れてると、その一瞬の隙をついて浩平が軽く葉子にキスをしてきた。さらりと唇と唇が触れ合うぐらいの軽いキス。

「哀れみのキスってことで?」

浩平がにんまりと笑う。


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