正しい男の選び方
葉子は一瞬我を忘れた。口が半開きになる。
すかさず浩平の唇が柔らかく侵入してきた。
桃にかぶりつくように葉子にキスをしてきたかと思うとちゅっと吸い上げ、舌をからませてくる。
思わず舌をからめとってなめつくしたくなるようなキスだった。
「情熱のキス」
それから浩平は耳たぶを軽くかじった後、もう一度ゆっくりと優しく唇を重ねた。
「求愛のキス」
「……」
「もう一度してもいい?」
「……ダメ」
「……ダメ?」
浩平はもう一度聞いてきた。
完全に酔ってしまわないうちに。まだ、最後の理性が残っているうちに。
葉子は絞り出すように声を出した。
「うん、ダメだよ。……カナの代わりにしないで」
「……」
浩平はゆっくりと顔を離した。浩平も我に返ったような顔をしている。
「じゃ、……私、帰るね」
「え?」
今度はひどく狼狽した顔をみせる。
「泊まってかないの?」
苦しそうな浩平の表情を振り切るように、葉子はわざと明るい声で言った。
「……泊まりません。襲われちゃうもん」
「オレは襲ったりしない」
「どの口が言うか」
「無理強いはしないよ、オレは」
わかってる。浩平は無理強いなんてしない。
ただ……一緒にいると、酔ってしまうだけ。
浩平は、テキーラよりもヴォッカよりも強く葉子を惑わす。
「……とにかく、帰る」
葉子はそれだけ言うと、浩平の家を後にした。