正しい男の選び方

「穏やかでいかにも研究者って感じだよね」

隣りに座る恵が葉子にひそひそと声をかけた。もちろん、政好のうわさ話である。

「研究者?」

「うん。ポスドクだって」

「細い銀縁フレームのメガネがそれっぽい」

「確かに。それに、あの、細長い指も神経質で研究者っぽくない?」

なるほど、恵に言われて政好の手元をみると、ほっそりした器用そうな手だ。
ひそひそ囁く声が大きかったのか、政好が恵と葉子の方に顔を向けた。

「何か意見ありますか?」

政好は低く落ち着いた声で二人に話しかけてくる。思わずうっとりとするようないい声だった。

「あ、あの……Tシャツを販売するなら、エコバッグなんかも一緒にどうでしょう?」

思い切って葉子が提案すると、政好は穏やかな笑みを浮かべた。

「いいですね。このイベントにふさわしい商品だと思います。考えてみましょう」

政好がメガネの奥で目を細める。
葉子の胸の内は、ぞわぞわとざわついてくるのであった。



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