正しい男の選び方
「……別にそんな人いませんから」
葉子の頭には昨日会った緑川政好の顔がちらついた。
でも、まだつっこんだ関係じゃないし、と自分に言い聞かせる。……結局連絡だって来ないままだ。
「じゃ、今晩、夕飯付き合ってよ」
「嫌ですよ」
「この前のお詫びに、君にはきっちりベジタリアンの食事を用意するからさ」
「何で私を誘うかな。昨日一緒にいた美女はどうしたのよ」
「彼女、今日から仕事でしばらくいないんだよ」
呆れて声もでない。
彼女がいない間に他の女にも手を出そうというのか。
「女なら誰でもいいってわけ」
「まさか。君と飲んだら楽しいだろうと思って」
「生憎だけど」
「やっぱり男がいるのか」
同じ会話の繰り返しで面倒になってきた葉子は、「そうです」と適当に出任せを口から出す。
「どんなヤツ?」
「……あなたと違って、根掘り葉掘りプライベートなことを聞いて来ない人」
「そりゃあ、君に興味がないだけじゃないか」
やっぱり失礼な言い草である。
「……仕事があるんで、失礼します」
なるべく他人行儀に聞こえる言葉を選んで、浩平の話を断ち切った。こうでもしないと一日中つきまといそうだった。
浩平はしばらく何か言いたそうに様子を伺っていたが、葉子が目を合わせないように品出しを終わらせて裏に行こうとすると、話しかけるのを諦めたようだった。