正しい男の選び方

「待ってよ」

浩平がぐっと葉子の手首を掴んだ。

「何!?」

くわっと牙を向いて葉子が答える。

「ほら、背中にガムテープがついてる」

浩平が背中からピッと何かはがして、葉子に見せると、確かにガムテープだった。

「あ、うわぁ……あ、ありがとう」

さすがに恥ずかしくて葉子は顔を赤らめた。

「いいえ、どういたしましてー。今、帰り?」

浩平は、歩き出す葉子にならんでするりと会話を滑らせる。

「……まあね」

「じゃ、一杯どう? 飲んで帰らない?」

浩平は適当なその辺の店を指差した。
てっきり御託がごちゃごちゃ並べられているような店に連れて行かれるかと思っていた葉子は拍子抜けだ。

「そこでってこと?」

「他の店でもオレは構わないけど」

「……ここで、一杯だけなら」

「よっしゃ!」

浩平は嬉しそうに小さくガッツポーズを決めた。

二人は店に入ると、カウンターの端にこじまりと座った。
この店では、昼はコーヒーを出して、夜になるとお酒をだす。大不景気・日本が生んだ「昼も夜もがめつく儲けてやろうじゃないの」的な手堅いチェーン店だ。

「あなたもこんな店に入るのね」

葉子はビールで乾杯しながら口を開いた。

「こんな店?」

「だって……昼はコーヒー、夜はお酒。食べ物もまずくはないけどすごく美味しいわけでもない。
 コンセプトのはっきりしないテキトーな店。あなたが一番選びそうもない店じゃない」


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