正しい男の選び方
とっさのことだった。
浩平は葉子の腰に手をあてて抱き寄せた。
浩平は、葉子の耳元にそっと唇をあてて、その手の指先はなめるように葉子の背中を這う。
(キモチイイ……)
「やめて」と言おうと思ったが、あまりの気持ち良さに、葉子はしばし無言で体を預けていた。
目をつぶってうっとりとする。
(男に触られるというのはこんなにも居心地の良いものだったっけ?)
葉子は酔いの回って来た頭で、前回男と抱き合ったのはいつだろうとぼんやり考えていた。
「ベッドに行く?」
浩平は葉子の耳元で囁いた。背筋がぞくっとする。抗い難い誘惑だった。
「行ったらどうなる?」
「気持ちよくなる」
「……じゃなくて!」
「じゃあ、オレと君との間で秘密が出来る?」
「秘密?」
「サンゴ礁にバラしていいの?」
「絶対ダメ!」
反射的に大声になった。
ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、絶対にダメ!とにかく今はダメ!!
「だろ? だから秘密」
そう言って、浩平は葉子を抱きしめたままキスを再開する。
さっきよりも少し深い口づけ。葉子の頬は、浩平の舌の感触を堪能していた。少し湿っていて、少しざらついている。
……
…………
「……っと! ストーップ!!」
すんでのところで、葉子の理性が呼び戻されたようだ。
浩平はぱたっと手を止めた。
「……ダメ?」
つぶらな瞳でまっすぐ葉子を見つめる。葉子の頬が急にカーッと熱くなってきた。
それ以上何も言えず、葉子が無言でいると浩平が囁く。
「サンゴ礁には内緒ってことで……」
甘くて低い声がセクシーだった。
この男はーー、この男は、葉子が今、政好と微妙な関係にあるのを知っているというのに口説こうというのだろうか。
それも、恋人どころか、何の感情も持っていないただの知り合いだというのに。
「その、節操なさすぎじゃない?」
最後の抵抗とばかりに、浩平の良心に訴えかける。
「そりゃー、こんな魅力的な女性が目の前にいたら、節操なんて吹っ飛ぶさ。」
いともあっさり、浩平は良心を吹き飛ばした。ゆっくりとさっきの続きを始めようとする。
葉子は混乱した頭でいろいろ考えていた。