正しい男の選び方
「どうして。嫌いなの?」
怪訝そうな顔をする。
葉子は舌打ちせんばかりの、苦々しい顔でぶつぶつと文句を言い始めた。
「そこのコーヒーね、子どもを虐待して作られてるコーヒーなのよ。
特にギャラクシーは酷くてね、どうやってコーヒーを仕入れてるか知ってる? コンピュータで……」
よどみなく続けようとする葉子を浩平はすっと遮った。
「また、そういう話。コーヒーがまずくなるから辞めろよ」
浩平は面倒くさがった声をだした。険のある言い方にカチンとくる。
話を聞かないんだったら、こちらも遠慮はしない、とばかりに葉子は不機嫌な声を隠そうともしなかった。
「……とにかく、私は飲まないから」
ぶすっとした表情で浩平を睨みつけている。
明らかに浩平は葉子の対応を間違えたようだった。甘い雰囲気などみじんもない。
せっかくのコーヒーとトーストが何の役にも立たなかったようだった。
この女……地雷だらけだな。トリセツがいるだろ、
浩平は心の中でそんなことを思いながら、ふーっと深いため息をつく。
「じゃ、紅茶でも飲みますか?」
「遠慮させて頂きます」
「……ホントに強情だな。待ってて、淹れてくるから」
浩平は、葉子の頬を軽くなでると立ち上がってキッチンへ戻っていく。
浩平が紅茶を淹れて戻ってきたころには、コーヒーはすっかり冷めていた。
ふっと枕元にあったケータイに目をやるとちかちかしている。新着メッセージが送られてきたのに違いない。
無造作にマグカップを葉子に渡すと、浩平はケータイを手に取ってチェックし始めた。
葉子はさっきの話を蒸し返した。
このままじゃ、コーヒーを拒否して紅茶を淹れ直させた葉子の方がイヤなヤツのような気がしてくる。
自分の主張の正当性を説明したかった。