正しい男の選び方
「……そうなんですね」
「緑川さんこそ、急いでたのでは?」
「ああ、ハイ。論文を仕上げなくちゃいけなくて、ちょっと焦ってまして」
「……じゃあ、帰った方がいいですかね?」
「……帰った方がいいです」
葉子はそれを聞いてガッカリした。心底落胆した。
せっかく勇気をだして誘ったのに、のれんに腕押し、とでも言えばいいのか、
全然、葉子の気持ちをわかってもらえない。
(これがアイツなら、白々しいぐらい芝居がかった仕草で大喜びするんだろうになぁ……)
などと、浩平のことを考えている自分に気がついて、葉子はブルブルと頭をふった。
もう、駅の改札がすぐそこで、入ってしまえばあとは別々の地下鉄で帰るだけだ。
「じゃ、私も帰ります」
あっけない夜はこうして幕を閉じた。
余計悩みが増えてしまった気がする。この政好の反応の悪さは何なんだろう?
どうも政好は葉子に好意を抱いているらしい。会ってる時の政好は、いつでも穏やかで楽しそうにしている。
しかし、恐るべきマイペースさで、葉子の気持ちを慮るなどという高等な技は身につけてないように見えた。
相当積極的に葉子が動かない限り事態は動きそうもない。
昼休み、休憩室で朝作ってきたおにぎりをぱくつきながら、隣りにおいてあるスマホをじっと見つめた。
(こっちからメッセージを送ってみようか。でも何て?)
考えて手が止まる。うまい文面が浮かんで来ない。
はあ、とため息を一つついて、休憩室をぐるりと見回すと、壁に貼ってある「世界中のグルメを食卓に」という標語の書かれたポスターが目に入って来た。