正しい男の選び方
葉子は毎日それを見ながら、自宅から持ってくる手作りのおにぎりと卵焼きの弁当を食べているのである。
ポスターを見る度に、皮肉な気持ちなる。
結局のところ、行き着くとこまで行き着けば、シンプルなおにぎりが最高のグルメになるのではないか。
今や、飽食の時代が一周して、地元の何でもない食べ物が、ローカルフードなどと言ってもてはやされるような時代だ。
おにぎりを齧りながら、葉子はブラジルの子供たちのことを考えずにはいられない。
自分たちはカネにあかせて、世界中の食べ物を買いあさり、あげくの果てにローカルフードなどと言っている。
一方で、彼らは、小さいうちから生きていくために重労働を強いられている。
しかも、そういう労働の結晶であるコーヒーを彼らは一生飲むこともなく、コーヒー豆は潤沢な資金を持つ海外のメーカーに不当に安く買いたたかれている。
資本主義社会における、このシンプルな事実を突きつけられるたびに、葉子は言いようのない不快感に襲われる。
矛盾だらけだ。本当にこの世は矛盾だらけだ。
ふいに浩平のことが頭に浮かんだ。
結局のところ、浩平のような傲慢な金持ちが、好き勝手に世の中を動かして、貧しい人たちから詐取してますます太っていくようになっているのだ。
しかし、あの男は、葉子の話に耳を傾けようともしなかった。それどころか、面倒くさそうな顔で葉子の話を遮ったのだ。
やっぱりあの男は葉子の敵だ。
あんな男と寝てしまったなんて信じられない。一生の不覚だ。
ああいう男をのさばらせないためにも、秋祭りは絶対に成功させねば、と葉子は決意を新たにする。
浩平のことを思うとにわかに闘志がふつふつと湧いてくるのであった。