正しい男の選び方
「嫌になるよ」
どうしても、むっつりした言い方にしかならなかった。
「でも、止めないんだ」
「だって……諦めたらおしまいだもん」
「しつこいんだなぁ。ああ、そう言えば、君の演説もえらく長くてくどいもんねぇ」
一々腹の立つ事を言う浩平である。
「もう、またバカにしてるじゃん」
「そんなことないよ。尊敬してる。その意志の強さと粘り強さはオレにはないから」
「それ、頑固ってだけじゃない。褒められてる気がしない……」
怒ってみせたものの、葉子の口調からとげとげしさは消えていた。
「褒めてるよ。だから、心配せずに少し気を楽にしろよ」
「うん……ありがとう」
心がすうっと穏やかになっていく。不思議だった。
電話の向こうでふふっと笑う声がもれた。
「……少しは落ち着いた?」
「うん」
「じゃあホットミルク作って寝な」
「……うん」
気がつけば葉子は素直に返事をしていた。
「……作りに行ってあげようか?」
長い長い沈黙があった。
「大丈夫。もう、夜遅いから」
「そう。じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
葉子は布団から抜け出してホットミルクを作った。少しだけ砂糖を大目に入れる。
甘くて暖かいミルクだった。