たった一つの忘れ物(仮)
優奈も沙耶もお目当ての彼を見つけたみたいで会話を楽しんでいる。しかし、どうでもいいあたしにとっては退屈だった。
そんなあたしに優奈が耳打ちをする。
「なあ、結ちゃん!結ちゃん!水島くんずっと結ちゃんの事見とるで!水島くん格好ぇえし黙ってばっか居らんと話しかけたら?あたしの事は心配いらんよ?あたしは田嶋くん狙いやから」
“ニコッ”と笑う優菜。
どうやら彼女は、狙う相手が水嶋くんから田嶋くんに変わったみたいだ。
「ぇえよ、あたしは。元々来る気なかったし」
早く帰りたい。
これが今のあたしの正直な気持ちだった。
「もお~結ちゃんはいっつも男の事んなるとこうなんやから!ぇえか!!あたしはあんたの為に言うてんねんで!!よし、あたしに任しとき!!」
そう言って水島くんに声を掛けた。
「なあ、水島くん!!結ちゃんが話したいって!!」
「へ?」
いきなりの優奈の一言にビックリしてつい変な声を出してしまった。
水島くんもビックリしてるみたいで、あたしの顔をじっと見ていた。
「ぉお~結子ちゃん、恭平と話したいって、大胆やな~笑」
そう早坂くんに言われて急に恥ずかしくなり、「帰る」の一言だけ言って席を立った。
「ちょ、ちょっと結ちゃん!?」
「結子!?どうしたん!?急に!!」
「結子ちゃん!?」
皆があたしを引き止めようとするが、それを無視してあたしは早足で店を出て行った。