たった一つの忘れ物(仮)
「最悪…」

これじゃあ、水嶋くんに失礼やん…何であんな態度とったんよ…

「ぁあ~…もう!!あたしの馬鹿!!」

あたしはその場にしゃがみ込み、髪の毛を両手でくしゃくしゃっとした。

すると、

「結愛ちゃん!!」

しゃがみ込むあたしに誰かの呼ぶ声がした。
振り向くとそこには息を荒げている水島くんが立っていた。

「水島くん…!?」

「はぁ…はぁ…げほっ…げほっ……はぁ…結愛ちゃん足、速いなぁ…。見失うかと思ったわ」

「ははっ」と笑いながら再び咳込む水島くん。
こんなに息を荒げて…わざわざあたしを追ってここまで来てくれたん…?
周りを見渡すと、お好み焼き屋からだいぶ先にある喫茶店の前まで来ていた。

「ごめんっ…」

今日、初めて会った彼に迷惑をかけて申し訳ない気持ちと、合コンを台無しにした責任感もあって、少し涙目になりながらも謝った。

そんなあたしを察してくれたのか、彼は何も言わずにあたしの頭を“ポンッ”と叩いて「大丈夫」と言った。

その彼の優しさに、少しドキッとしてしまった。


この時、あたしは彼に恋をしたのかもしれない。

だけど、誰かを好きになるなんて今までになかったあたしには、それに気付く事が出来なかった…


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