春の扉 ~この手を離すとき~
「咲久也、先生……」
先生が来てくれてよかった。
助けてもらって、本当によかった。
けれど、あんなところを。
よりにもよって咲久也先生に見られてしまうなんて。
……どうして?
わたし、どうして咲久也先生には見られたくなかったって思ったの?
胸の鼓動がどんどんと早くなっていく。
そして心が切なくなっていく。
そんなの、気がついている。
初めて持ってしまった気持ちだけれど、
これが何なのか分かってる。
あの日、体育館でバスケをしている先生を見た瞬間から、
わたし先生のこと……。
でもそれを言葉にすることをためらってしまう。
だってわたしが大切に思う人はいなくなってしまうから。
求めれば失ってしまうから。