春の扉 ~この手を離すとき~
結局眠ることはあきらめて、予定をかなり早めて始発の電車でおばあちゃんの家に向かうことに決めた。
これなら午前中には到着するはずだし、
向こうでゆっくりすればいいだけだし。
駅前のイルミネーションは消えていて、代わりに長い列をなしているタクシーの赤いテールランプが道を飾っている。
何人かの運転手がわたしをチラチラと見たけれど、乗るつもりはないから視線を合わせないようにして駅へと入った。
電車の中はまだガランとしていて、まばらに座っている乗客は寒そうに背中を丸めて寝ているか、首をかがめてスマホの画面を覗いていた。
わたしは長椅子の一番端に座ると、スマホを取り出した。
着信とメッセージが届いているのは確かめなくても分かっているけれど。
大きく息をついて電源を入れると、予想通りに画面のアイコンが新着のメッセージが届いていることを教えてくれた。