春の扉 ~この手を離すとき~

リビングに荷物を運ぶと、すぐに暖炉に火をつけた。

太陽が照っている外よりも、誰もいない室内の方が空気が冷たい気がする。

そして大きな長いソファに腰をおろした。
いつものように右から1人分をあけて。
だって一番右はおばあちゃんの場所だから。

おばあちゃんに寄りかかって絵本を読んでもらったり、わたしのお洋服を縫ってくれているのを邪魔したり……

懐かしさに部屋の中を見渡し、大きくため息をつくとまだ白いままの息が寂しく感じる。


そしてもう一度、ただいまとつぶやいた。


小さな頃はなんとも思わなかったけれど、この家は大きくて『家』と呼ぶよりは『屋敷』。

おばあちゃんは裕福な人だったんだなと最近になって気がついた。家具や飾ってある置物はとても古いアンティークな物ばかりだし。
価値なんて全然分からないけれど、きっと大切に使わないといけないんだと思う。


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