春の扉 ~この手を離すとき~
こんな大きなお屋敷だけれど使う部屋は限られていた。
おばあちゃんの寝室と、このリビング。
あとはキッチンとトイレとお風呂。
まるで今のマンションと同じ。
使っていない部屋は全ての家具に白いシーツがかけられていて、帰ってきたときに空気の入れ換えをするために入るぐらいだった。
リビングの隣には、わたしの子供部屋もあるけれど、いつもおばあちゃんと一緒にいたから、そこにもほとんど入ったことなんてないし。
子供のときの洋服やアルバム、そして幼稚園で作った芸術作品がクローゼットにしまわれているだけだと思う。
「さてと……」
わたしはキャリーケースに目を向けると、立ち上がった。
荷物を片付けたら、すぐにおばあちゃんに会いに行かないと。