春の扉 ~この手を離すとき~

「あら、美桜ちゃんかいね? 」


門から出ると元気のいい声に呼び止められた。
ぽっちゃりとした年配の女性が、隣の家の窓から顔を出して手を振っている。


「妙子おばさん、ただいまー! 今からそっちに行こうと思っていたんだよ」


その笑顔を見るだけでうれしくなる。
わたしは持っていた紙袋を持ち上げて『おみやげ』を見せた。

おばあちゃんとお父さんのお墓参りの前に、必ず顔を見せに行くところ。それはお隣に住んでいる年配のご夫婦の家。

妙子おばさんたちはおばあちゃんとすごく仲良しで、おばあちゃんが亡くなった今でも定期的に家や庭の手入れをしてくれていた。
それぐらい信頼しあっている関係を築けていて、わたしが不自由なくここに帰ってこれるのも妙子おばさんたちのおかげだった。


そして、わたしが帰ってくるたびに娘が戻ってきたかのようによろこんで迎えてくれるし、わたしが遠慮なく甘えられてわがままも言える存在。

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