春の扉 ~この手を離すとき~

「ああ、もう松子さんの命日になるんかいね? 」


妙子おばさんはニコニコと笑顔を浮かべながら、愛情たっぷりにわたしの顔を両手で頬をぎゅううと挟んだ。


「うん。あとね、冬休みの間はこっちで過ごそうと思って。はいこれ」

「いつもありがとねー」


おばさんは手渡した紙袋の中を覗き込むと嬉しそうに目を細めた。
中にはおばさんの大好きなお漬け物が入っていて、来る度のお約束になっている。


1度、違う種類のお漬け物を持ってきたら口に合わなかったらしく『あれはダメダメ。いつもの方がいい』とはっきりと言ってきた。
そんなサバサバとしていて遠慮のない性格が面白くて、わたしはおばさんが大好きで仕方ない。


「それで、玉緒ちゃんは? 」

「お母さんは年末に来るって。今年は2人でゆっくり寝正月だよ」


笑顔で答えてしまう嘘に罪悪感を感じてチクリと胸が痛む。

でも、1人で過ごすなんて言ったら心配をかけてしまうから。

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