春の扉 ~この手を離すとき~
「またその話? 日が暮れる前におばあちゃんに会いに行ってきてもいい? 」
まだお昼前だから日が暮れるわけないのだけれど。
わたしが大袈裟な強行手段で話を中断すると、おばさんはケタケタと笑いだした。
わたしがうんざりするのを分かってくれているし、その態度を出しても嫌な顔も見せずに受け入れてくれる。
「はいはい、気をつけて行っておいで。今夜はうちでご飯でいいね? 」
「うん、もちろんそのつもりだよ」
わたしが勝手に決めている図々しい予定を聞いて、おばさんは益々うれしそうに笑いだした。
甘えれば甘えるほどによろこんでくれる。
そんなおばさんを見ていると、わたしはここにいてもいいんだって、安心する。
「じゃあ行ってくるねー」
わたしは手をふりながらおばさんと別れた。
残っていた雪はほとんどが解けていて、道はぬかるんでいる。
軽い足取りを、泥が跳ねないようにゆっくりとした歩調に変えて、わたしはおばあちゃんの元へと向かった。