春の扉 ~この手を離すとき~
わたしがここでおばあちゃんに話すことへの返事が書いてあることもあったから、もしかして『桜の木になる』と言っていたおばあちゃんからの手紙じゃないのかって思いたかったこともあった。
けれど手紙の口調はおばあちゃんではないのは分かっている。
だとすると、
考えられるのは、……この桜の木?
そんなことあるわけないけれど、でもそう思っていたい。
サンタクロースを信じている子供みたいって笑われたくないから、誰にも話せないけれど。
「おばあちゃん。明日、あの日から8年になるよ」
だけど見上げた桜の木は何も言ってはくれない。
わたしは幹におでこをコツンとくっつけて、小さくため息を吐いた。