春の扉 ~この手を離すとき~
桜の木
『美桜、……ほら笑って? 可愛い顔を……見せて 』
『おばあちゃん、はやくかえろー 』
『おばあちゃんね、桜の木になって、……ずーっとずーっと……、美桜を見守っているよ。……だから、泣くことなんてない、のよ』
『おばあちゃん、……おばあちゃんっ』
「おばあちゃんっ! 」
わたしの声に、目の前にいたおばあちゃんの姿が一瞬で消えていった。
乱れた呼吸とバクバクと波打つ心臓。
そして止まらない涙は、頬を伝い続けている。
「……おばあちゃん、……どこ? 」
最後に強く握られた手の感触が、まだはっきりと残っている。