春の扉 ~この手を離すとき~
あの日のことは今でもはっきりと覚えている。
とても寒くて朝から雪が降り続いていて。
夜ごはんにお隣の妙子おばさんたちを招いて、この家でお鍋をする予定だった。
おばあちゃんのお買い物に一緒について行くっておねだりしたのに、雪がすごいからって妙子おばさんの家に預けられて。
でも全然帰ってこないおばあちゃん。
1人で外に出ると怒られるのは分かっていたけれど、待ち遠しくて。
電話がかかってきた妙子おばさんの目を盗んで、バス停まで迎えに行こうとお気に入りのピンクの長靴を履いているときだった。
突然、妙子おばさんに担ぐように抱えられると車に乗せられて。
『松子さんがね、……おばあちゃんがね、』
って、それ以上は何も言わない妙子おばさんは真っ青な顔をしていた。