春の扉 ~この手を離すとき~

午前中に妙子おばちゃんとお墓参りをすませると、わたしは1人でバスケットを持って桜の木へとやってきた。


「今日はお昼から暖かくなるんだって」


桜の木に話しかけたあと、バスケットからピクニックシートを取り出して側に敷くと、クッションと寒さ対策のブランケットを置いた。

そして読みかけ小説とおやつのクッキー、お揃いのティーカップをふたつとりだした。


「はちみつは入れる? 」


ポットからカップに熱い紅茶をそそぎながら桜の木にたずねると、バスケットをテーブル代わりにして2つのカップを並べた。

白く透明な湯気はちぎれるように風にあおられて、すぐに冷めてしまいそうだけれど。


ここに帰ってきたときは、この桜の木の側で過ごすのがわたしの日課になっていた。
さすがに天気の悪い日や寒すぎる日は無理だけれど。


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