春の扉 ~この手を離すとき~

少し強めにふいた風が、ほんの少しだけ雪の匂いを運んできた。


……雪か


今日みたいに晴れていたらあんな事故なんて起こらなかったのに。


また、最後におばあちゃんに握られた手の感触が蘇ってきて、一緒に寂しさが沸き上がってくる。

立ち直れないとか引きずっているとかじゃない。

幼いわたしにとって、おばあちゃんが全てだったから。
そして今もとても大切な存在。


『悲しんでいると、亡くなった人が心配する』


ってこれまでに何度か言われたことがあったけれど。

でも悲しいものは悲しい。寂しいものは寂しい。
ごまかせるほど強くなんてないし、わたしが我慢していることの方が逆におばあちゃんを心配にさせてしまうと思う。

だからおばあちゃんの前では、この桜の木の前では無理なんてしたくない。

ここでは泣きたいときは泣く。

それが本当のわたしだから。
おばあちゃんも分かってくれていると思うし。

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