春の扉 ~この手を離すとき~
わたしはじわっと込み上げてきた涙を指で軽くぬぐうと、桜の木に話かけた。
「昨日はね、妙子おばさんの家で焼き肉だったんだよ」
結局、昨日は魚が釣れなかったおじさん。
でもわたしが帰ってきたことをよろこんでくれて大奮発をしてくれた。
お酒に酔ったおばさんはとっても長いおばあちゃんとの思い出を始めてしまい、そして『松子さんは最後の最後まで立派な人だった』とうつ伏せて泣きながらそのまま眠ってしまった。
今朝おばあちゃんの夢を見たのは、妙子おばさんの話を聞いたからかもしれない。
わたしがお隣のご夫婦に可愛がってもらえるのは、おばあちゃんのおかげだと再実感できたし、亡くなってもまだ思い続けてくれていることがうれしくなる。
それをに少し自慢気に、そして安心してほしくて報告をした。