春の扉 ~この手を離すとき~
「こんなところで寝ていると風邪をひくよ」
……だれ?
誰かが頬をくすぐった。
ふっと目をあけると、何かがひらりと手のひらに舞い落ちてきた。
……桜の花びら?
でも花びらはすっと溶けて消えてしまった。
そしてまた、桜の花びらが1枚……
夢を見ているの?
……違う、……雪だ。
紅茶を1度淹れ直したのまでは覚えていたけれど、昨日も一昨日も寝不足だったからか、いつの間にか眠ってしまったみたい。
青空の中を、風によって運ばれてきた雪がひらりひらりとわたしの周りを舞っている。
風花だ。……きれい。
でもわたしを起こしたのはだれ?
一瞬、おばあちゃんかと思った。
重いまぶたをこすりながら起き上がり、辺りを見たけれど誰もいるわけないし。
気のせいだったのかもと思いながら喉を潤そうと紅茶に手をのばしたわたしは、ティーカップに釘付けになってしまった。
だって、桜の木にいれた紅茶のカップが空っぽになっている。
……やっぱり!