春の扉 ~この手を離すとき~


「おばあちゃん! おばあちゃん、どこにいるの? 」


もし本当におばあちゃんなら、たとえ幽霊だとしても会いたい。


けれど、もう1度辺りを見渡しても誰もいない。


残念な気持ちのまま何気に桜の木を見上げると、ウロに何か入っていることに気がついた。

心臓が止まりそうになるほどドクンと鼓動し、一気に緊張が高まってくる。


わたしが置いていたクリスマスカードとは違う。


ブーツを履く時間も惜しくて、わたしは靴下のまま桜の木に駆け寄ってウロを覗きこんだ。


そこには待ち焦がれていた手紙が入っている。
いつものように白いデイジーの押花が張りつけてある真っ白な封筒。

桜の木からなのにデイジーの花だなんて不思議だな、って思ったこともあったけれど、今は気にすることもなくなっていた。

ホッとした気持ちと、おばあちゃんに会いたかったという残念な気持ちがごちゃ混ぜになりながら、わたしは封筒を手に取った。


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