春の扉 ~この手を離すとき~

「イブは美桜が無理だよ」

「は? なんで? 」


驚いた健太郎くんは智香を見たあとに、すぐにわたしの顔をのぞいてきた。

その距離があまりにも近すぎて、恥ずかしくてだんだんと顔が赤くなってくるのが分かる。


「冬休みはずっとおばあちゃんの家で過ごすことになっているから」


わたしは笑顔を作りながら逃げるように顔をひくと、距離を確保するためにジュースを飲んだ。

そしてグラスを空っぽにして、次に立ち上がるタイミングを探しはじめた。

そんなわたしを見て、健太郎くんは自分がわたしを照れさせたことがうれしいのか楽しいのか、自信げにドヤ顔をしてくる。


「少しぐらいずらせばいいじゃん。イブなんて年に1回しかないのに」

「んー、冬休みに入ったらすぐに行く予定だから。ちょっと難しいかな……」


どうにか諦めてもらおうと、でも角がたたないように首をかしげながらあやまってみる。

無理ってことを察してほしいんだけれど。

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