春の扉 ~この手を離すとき~

健太郎くんを見ただけで、一瞬で無理矢理にキスをされそうになったあの日へと引き戻されてしまった。

そして、右手の甲に健太郎くんの感触がまざまざとよみがえってきて、涙がだんだんとにじみ上がってこようとしてきた。


もしかして、……みんな聞いてるの?



でも、そんなわけないよね。
そうだとしたら文乃が写真なんて送ってくるはずないし。


気にはなるけれど、探りを入れるのはやめておこう。
知らないのなら、知られたくはないことだから。



―― わたしも行きたかったな。明日には戻るからね。



返事のために自分で文字にした『明日には戻るから』という言葉。
それが絶対厳守の変更不可能なスケジュールみたいに見えて、変な圧力を感じてしまって、ますます心が重くなってくる。


学校が始まれば、嫌でも健太郎くんと顔を合わせることになる。
早く別れてしまいたいけれど、別れを切り出す緊張感をまた繰り返さないといけないなんて……。



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